コンパクト

「私は光の国から来ました。」 女はそう言いながら、コンパクトを開きました.
その中から光が放たれ、男の顔を照らしました。
男はまぶしさに目を細めながら、女の顔を見つめました。
女は恥じらいから視線をそらしました。
それでも、しっかりと男の顔を照らしていました。
「光の国は遠いですか。」
「それは もう、あなたのすぐ後ろに来ています。」
男は振り向きました。そこには酔っ払った友人が大きな口を開けて眠っていました。
女は近づいて、その顔を照らし始めました。
酔っ払った間の抜けた顔はいくら光に照らされようと間の抜けたままでした。
女はコンパクトを閉じました。
そして、それからは一切、光の国のことは口にしませんでした。

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