この世の終わり
言葉とはたいへん経済的に出来ているのだそうです。
僅かな数の言葉で世界を表現し、そして、世界を理解する、あるいは、理解した気分になれるのだそうです。
もしも、全ての物やことを一つ一つ表現できるそれぞれの言葉を持つなら、
我々は無限に増殖する言葉の渦の中で何一つ伝え合うことができず、
文明も文化も創り出すことはできなかったでしょう。
そしてここに、詩人という変わり者が生まれるのです。
彼等はそんな言葉には我慢できず、
言葉を揺すぶったり砕いたり、
使われなくなって捨てられた時代遅れの言葉をわざわざ瓦礫の下から掘り出したりして、
何としても、自分の心の中の出来事を薄めず歪めず伝えようとするのです。
だからこそ、彼等の作った上出来の言葉の中には、
どこかこの世の終わりの消息が仄かに陽炎のようにゆらゆらと
立ち上ってくるのです。

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