人工の物体
人工筋肉の表面に人工皮膚を施し、
内部は一定の温度に保ち、人肌感を出します。
それを維持するために日に何回か定期的に栄養分を注射器で補給しなければなりません。
しかし、多くの場合、数ヶ月もすると、ついつい忘れてしまうのです。
すると、内部の温度が下がり、あらかじめ、埋め込まれた人工蛆虫の卵が孵化するのです。
それは、見るも無残なおぞましい光景が繰り広げられます。
当然、このままゴミ袋に入れて燃えるゴミとして捨てることは何の問題もありません。
しかし、人の心とは面白いものです。
庭などがある家庭は穴を掘り、それを埋め、小さな石をその上に置くようです。
しばらく、それを眺めていると、名前を付けたくなります。
男、女は半々でしょうか、共通する点は子供らしい名前であることです。
どうしても人間の名は抵抗があるらしく、ポチやタマなどのペット用の名をつける方も多いようです。
すると、どうでしょう、家族の誰かが突然、石の前に突っ伏して、泣きじゃくります。
何度も湧き上がる嗚咽の中で振り絞るよな声で言うのです、
「そんな名前じゃ、この子が可哀想。」
その時、家族は忘れていた大切な何かを思い出すのです。
 

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