窓のない家
あなたの部屋を見渡してください。
何ヶ月も閉じたままのカーテンやブラインドはありはしないですか。
よく考えてみてください。そうです。もうすでに窓は必要ないのです。
近くの工務店などに相談して、窓を塗り潰してもらいましょう。
もう少し、心を落ち着けて、今一度、あなたの部屋を見渡してみましょう。
部屋の出入り口である扉の前に、わざと邪魔するように置かれた鞄やゴミ箱などはないでしょうか。
よく考えてみてください。そうです。もうすでに扉は必要ないのです。
手近にある板と釘でしっかりと打ち付けてしまいましょう。
あなたはだいぶ遠回りをして来ました。
もう何もしないで、お気に入りの椅子に座って、じっと待てばいいのです。
向こうの方でも、どれだけ、あなたがそれに気付くのを待っていたことでしょう。
長い長い月日でした。必要のない涙が幾たび流れたことでしょう。
もうすでに、用意は整っていたのです。さあ、ゆっくりと、あなたのズボンの擦り切れたポケットに、
手を入れてみて下さい。
あなたのために用意された、あなたにふさわしい、少し歪んだ、
けれども正真正銘の予定調和の、心地よい冷たさが指先に触れるはずです。

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