北斎
北斎の絵をじっと見つめて下さい。
そこに描かれているものは本当にあなたがそうだと思っていたものなのでしょうか。
鳥のように見えているものは本当に鳥なのでしょうか。
首が曲がりすぎてはいませんか。
それは馬なのですか。少し違うのではないでしょうか。
そんな波があるでしょうか。木とはそういうものだったでしょうか。
人物を見てください。禿げ頭のように見えますが、もはや人間ではないのです。
ほとんどが笠で顔が見えないようにしています。
何者かに変質しているのを隠しているのです。
北斎自らも何か別のものに変容しつつあったのでしょう。
そして、顔でないものを顔のように、手でないものを手のように、
尻でないものを尻のように、何とか描くことで人様と同じ現実に自らを辛うじて繋ぎ止めたのです。
だから、狂気のように描き続けねばならなかったのです。
そして、幸いに人として死を迎えることができたのではないでしょうか。

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